『アラン・ドロンのゾロ』①~「カピストラノの疫病神」と呼ばれたシヴァリー(騎士道)~

 アメリカの歴史はアングロサクソンの歴史、そして、独立戦争や南北戦争、ゴールドラッシュによる西部開拓の歴史のみではありません。
 カリフォルニア地方の歴史は先住民族ネイティブアメリカンの土地からスペイン人の入植、メキシコの統治期を経て、そしてようやくアメリカへと変遷してきた歴史を持っています。
 北アメリカがまだ、合衆国として独立前のイギリスやスペイン統治下の時代、このカリフォルニア地方では、1769年のフニペロ・セラ率いるミッショナリー(開拓農園)によって開発が始まっていきました。
 スペイン伝統の騎士道「シヴァリー(Chivalry)」を精神的支柱としているジェントリー達。カリフォルニア開拓のために入植していたフランシスコ派の伝道師たちとその教団。彼らが農業経営のために雇用した先住民族。そして、スペイン本国の植民地統治のために設置された総督府とその軍隊等の人々により、開発されていきました。
 現在でも18世紀後半の入植の跡地としてヨーロッパの古びた石畳の佇まいを歴史の風土として残しているスペイン風の町並みサン・ファン・カピストラーノ (San Juan Capistrano)を物語の舞台として「快傑ゾロ(The Mask of Zorro)」の物語は展開します。映画『アラン・ドロンのゾロ』ではニューアラゴンという名称の南米北西部の土地としていますが、この「快傑ゾロ」は当局にとっては「カピストラノの疫病神」と命名され、疎んじられていた義賊です。
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 物語の展開は総督府の軍の指揮官からの圧政と苦しむ民衆との確執、ゾロ=ドン・ディエゴ(同名)の活躍を中心に進められていきます。小物で大ボラふきでゾロに懲らしめられるガルシア軍曹(ゴンザレス)、開拓宣教師フランシスコ(フェライプ)との友情、勇敢に総督府に抵抗したがために没落させられた伯爵家の令嬢オルテンシアン(ロリタ)との恋、先住民の少年チコ(原作には登場しません)との対話、忠実な聾唖者の部下ベルナルド(同名)との主従関係、そして、総督府内部での大佐ウェルタ(レイモン)との駆け引きなどが丁寧に描かれています。
【( )内は、「快傑ゾロ」(ジョンストン・マッカレー 著、井上一夫 訳 1969年創元推理文庫刊)での登場人物名】

 「Z」のマーキングは英雄ゾロの頭文字。大きな黒いキツネの精霊の化身で正義の英雄なのです。スペインからの移民に教えられたのでしょう。先住民の少年チコはゾロが今に動物たちを解放すると信じています。恐らく解放されない民衆を動物たちに投影していたのかもしれません。少年はゾロになる前のディエゴに言います。「人間は弱いか、悪いかで解放されることが出来ないんだ。」うなだれた悲しい少年の表情。

 しかし、ゾロは現れたのです。民衆に圧政への抵抗を説くフランシスコ修道僧がでっち上げの裁判で鞭打ちの刑に処せられようとしたそのときでした。民衆の願いが現実となったのです。
 ゾロは仮面を脱いだときは軟弱な新総督ドン・ディエゴを装い、圧政の最も根幹の原因にある総督府の軍部の司令官ウェルタ大佐を欺き、軍部と民衆のせめぎ合いにおいては、人知れずゾロに変身して軍部の腐敗と野望をうち砕いていきます。

 そして、いよいよ独裁者ウェルタとの最後の決闘のときがきました。死闘の末、ゾロの正義の剣の前にはさしものウェルタも倒されたのでした。
 ようやく、この開拓地にも自由と平和が訪れ、ゾロがこの地を離れるときがきました。
 最後にゾロは、これからのカリフォルニアの開拓に全力を注がなければならない民衆たちにオルテンシアンを通してメッセージを残したのです。

 「もうゾロはいない。これからはゾロに頼ることはできない。正義を大切にする社会をつくるために、みんなで立ち上がらなくては!」
マスク・オブ・ゾロ
/ ソニー・ピクチャーズエンタテインメント





快傑ゾロ
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奇傑ゾロ
ダグラス・フェアバンクス / / アイ・ヴィー・シー
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by Tom5k | 2005-06-19 16:45 | アラン・ドロンのゾロ(2)

『スコルピオ』①~国家情報組織の活動~

 CIA(アメリカ中央情報局=Central Intelligence Agency=)は、アメリカ合衆国大統領の直轄の諜報機関であり、本部はワシントンD.C.郊外に設置され、国家の安全保障を目的にした情報活動のために世界各国に配置された諜報員によって、軍事・外交等における情報収集・分析を実施しています。
 基本的な業務範囲には、国家安全保障の法令等に基づき、各情報活動として、各関係部局への助言・調整や政府内部への情報提供業務があります。また、公開情報だけでなく、非公開の情報の収集・分析なども多く、ニュースソースの非公開判断も多くあり、アメリカ国内の国家安全保障会議における指示による特別の業務遂行も多いそうです。
 反アメリカ政権が発生しそうな場合にクーデター、指導者暗殺等で政権交代を支援する目的で外交政策・国防政策で不可能な非公式的な各施策を実施することもあり、時にその活動は謀略活動の場合もあるとまでいわれています。

 第二次世界大戦でのアメリカ合衆国の情報活動は、他国の例に漏れず、全世界的な規模における戦術・戦略情報を主にしていました。1945年、大戦終結とともに海外派遣の軍隊を帰還し情報活動も縮小させました。
 しかし、ソビエト社会主義共和国連邦は軍を帰還させず、東ヨーロッパ7カ国を衛星国とし、中東への軍の駐留、各国の共産主義政権樹立の援助等によりヨーロッパやアジアに勢力を拡大させ、日本においては北海道の分割まで要求しました。
 これらのことから、アメリカ合衆国政府は国家安全保障の対外施策としてCIAの設置法令等を整備したわけです。
 1950年、朝鮮戦争での中華人民共和国の介入が予測不充分であったことから批判のやり玉にもあがりましたが、1962年のキューバ危機の回避では一定の評価を受けました。ベトナム政策においては、北爆が無意味であるという冷静な報告をしていたにも関わらず、ホワイトハウスはこれを無視して、北爆を決定し政府当局は国民世論からの激しい批判を受けていきました。

 内政においてはFBI(連邦捜査局)との共通目的で、国内のベトナム政策批判者の監視行動として尾行や盗聴、郵便の盗読等の恥ずべき行為を繰り返し、映画俳優のマーロン・ブランド、ジェーン・フォンダもその被害者であったそうです。そして、ニカラグア政府転覆マニュアルの『CIA手引書』の暴露などからCIAは巨大なダーティ体質をもった諜報官僚組織というイメージに変質していきました。
 いずれにしても、設置当時からCIAは安全保障=反共政策として国内行政機構の最重要ポストに位置付けられていたわけです。

 しかし、CIAの活動、特に海外勤務の際のソ連のKGB(国家保安委員会)工作員との接触においては、複雑な人間関係もあり、双方、顔見知りで相手の仕事もよくわかっていたり、ときには仲良く食事をともにする場合もあったいいます。双方がそれをきっかけに抱き込み工作合戦を繰り返していたことも珍しくはなかったようです。このような日常で最も危険なことはCIA工作員がKGBのスパイに寝返り、CIA本部において以前より重要なポストに就くことが不可能ではなかったまで言われています。
CIA―変貌する影の帝国
斎藤 彰 / 講談社






(以下抜粋)
『1982年6月15日、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港で逮捕された元CIA工作員エドウィン・P・ウィルソンの場合が、まさにいい例だ。
 ウィルソンはCIAを退職したあと、アメリカが最も忌み嫌うリビアを本拠地にテロリスト訓練所を設立、中東・アフリカ地域を対象として手広く武器売買やテロ要請員派遣をおこなった。またウィルソンは海外に亡命したカダフィ政権のリビア人を暗殺する仕事を請け負っていた。
 ウィルソンにとっては「理想郷」のアメリカにいるより、冒険心、大胆さ、仕事のやりがい、報酬のすべてを満たしてくれるリビアの仕事の方がはるかに魅力的だったのだ。
 現職者の中にはウィルソンと同じ心境でいる人間がいないという保証はない。』
(「CIA~変貌する影の帝国~」斎藤 彰 著 昭和60年 講談社現代新書より)


 映画『スコルピオ Scorpio』はウォルター・ミリッシュ・プロダクションがマイケル・ウィナーの演出により、アラン・ドロンとバート・ランカスターを主役にして製作した1973年の作品です。CIAというアメリカ合衆国の巨大機密組織の暗部を暴露したアクション映画ですが、当局への批判に挑んだ側面も持っており、映画製作に当たって恐らくは、勇気ある決断も多々必要であったと思われます。
 CIA諜報部員クロスは自らの思想・信条からソ連側に寝返った諜報員として人物設定されています。まるで前述したウィルソンがモデルであるかのようですが、作品製作が事件より9年も前のものであることに驚きます。
 そして、アラン・ドロンが演ずる蠍座の殺し屋ローリエは、バート・ランカスター演ずる東側に通じているスパイのクロスを暗殺する任務を命ぜられますが、彼は長年の信頼関係の強いパートナー同士であり、それを躊躇します。ところが、ゲイル・ハニカット演ずる恋人スーザンまで東側に通じており、2人に裏切られていたことを知ったことで遂にCIAの指示どおり、ローリエはクロスとスーザンに拳銃を向けるのです。

 更に非道であるのは、ローリエが忠実に業務遂行したにも関わらず、口封じのために、CIAが彼に銃口を向けたことです。この作品のテーマには、似て非である「ハードボイルド」とか「非情」などという人間的な感性に結びつくものは、実は皆無なのです。あるのは国家の無機質な官僚主義と組織運営上の機能的側面のみです。

 冷戦終結後、慢性的な赤字財政に苦しむホワイトハウス・合衆国政府はCIA組織の規模縮小を実施していきましたが、近年においても、9.11同時多発テロやイラク攻撃に係る業務などに関わっていたといわれているようです。

『イラク戦争前の米政府の情報活動を調べていた米上院情報特別委員会は9日、中央情報局(CIA)が「イラクの大量破壊兵器の脅威」を誇張したと批判する報告書を発表した。
 また同委員長は「これは地球的規模での、情報活動の失敗である」として、CIAを厳しく批判した。
 一方、CIA自体が、イラク攻撃を主張する政権幹部から圧力を受けたか否かの点では、報告書は「(そうした)証拠を見いだせなかった」とし、ブッシュ政権がCIAなどに圧力をかけて、「イラクの脅威」を誇張させたとの見方を否定した。』
(2004年7月10日 読売新聞より)

 アメリカ合衆国政府としては、将来的にはCIAに代わる『国家情報局』を設置することでCIAの発展的解散を予定しているといいます。
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by Tom5k | 2005-06-06 18:38 | スコルピオ(2)