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『パリは燃えているか』①~侵されない理由~

 再版未定となっていた『パリは燃えているか?上・下』(ドミニク・ラピエール 、ラリー・コリンズ著、早川書店刊行)が3月に単行本で復刊されました。

パリは燃えているか?(上)
ラリー・コリンズ&ドミニク・ラピエール著 志摩隆 / 早川書房





パリは燃えているか?(下)
ラリー・コリンズ&ドミニク・ラピエール著 志摩隆 / 早川書房





 戦後60年後の現在のパリは毅然と誇らしげに町並みを現存しています。
 ルーブル美術館はじめ、各大規模美術館の数々、点在するローマ時代の遺跡群、カルチエ・ラタン、サン・ジェルマン・デ・プレなどの文教地域、パリ万国博覧会の開催時のモニュメントとして建造されたエッフェル塔、フランス革命時にマリーアントワネット、ルイ16世から始まり、ダントンやロベスピエールなどの革命家でさえもギロチンの露と消えてしまったコンコルド広場、ジャンヌ・ダルクの名誉回復審判やヴィクトル・ユーゴーの小説の舞台となったノートルダム寺院、ナポレオンのアウステルリッツの戦勝記念として発案された凱旋門、そして、革命市民の名が今でも刻まれているバスチーユ広場.....等々。

 戦時下においてさえ、破壊されなかったこれらのパリ文化遺産の数々。

 映画『パリは燃えているか』は歴史を再現したノンフィクションです。「Dデー」、連合軍のノルマンディー上陸作戦の決行、そして上陸成功。あせるヒトラーはパリ占拠の責任者にコルティッツ長官を任命してパリ焦土作戦を命じました。
 一方、抵抗組織レジスタンス内部では、共和主義者のドゴール派の幕僚アラン・ドロン演じるデルマスと自由フランス軍の共産主義組織のロル大佐との対立に代表される矛盾を抱えていました。しかし、議決の結果では、敵はただひとつナチスドイツであるとの結論を生み出し、ついに統一人民戦線レジスタンスの武装蜂起が決定されたのです。ドイツ軍のパリ鎮圧目的の攻撃とパリ市民の解放への闘いが始まり、おのおのパリ市民は武器を手に立ち上がり市の要所を奪還していきました。

 パリ占領軍の長官コルティッツのジレンマは作品でもよく描かれており、勝利を確信し、決してナチスに屈服しないレジスタンスの誇りや自信との対比もリアルに表現されています。絶対であるヒトラー総統の命令であるパリ壊滅を戸惑うコルティッツ。

 それにしても、当時、戦況が不利になってきていたナチスドイツとはいえ、まだ相当の軍勢を維持しており、最も有能で優れた軍人であるコルティッツが任務していたパリにおいて、破壊を免れて解放されていったパリの様子は、単に歴史上の事実のみならず人類史の遺産として認知されるべきことであるとわたしは思うのです。

 戦後60年経った今、ひとつだけはっきりといえることは、パリ市民のレジスタンス運動が本物であり、パリの各文化遺産が本物であったこと、ナチスドイツ、およびヒトラーは偽物であったということです。偽物が本物に勝利することなど決して不可能なことなのです。
 本物の市民運動や文化遺産が、いかなる力によっても破壊することが出来ないということが証明された最も典型的なケースとして、このパリ解放の物語の真実があるのは、人類史の誇りとして銘記すべき出来事なのだとわたしには思われるのです。

by Tom5k | 2005-04-07 20:39 | パリは燃えているか(2) | Trackback(3) | Comments(6)

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Tracked from 星の輝く夜に at 2006-05-02 12:09
タイトル : パリは燃えているか
パリは燃えているか 「パリは燃えているか」(66)は、ラリー・コリンズとドミニク・ラピエールの原作、第二次大戦中、独軍占領下のパリを舞台に、連合軍によるパリ解放に至る過程(2週間)と、その裏で繰り広げられた大戦秘話をオールスター・キャストで描いた大作。 製作はポール・グレーツ、監督は「太陽がいっぱい」(60)のルネ・クレマン、脚本はコア・ヴィダルとフランシス・フォード・コッポラ、ドイツ語追加台詞をグレーテ・フォン・モローの共同脚色、撮影は「リオの嵐」(65)のマルセル・ムーシーア、特撮はロバート・...... more
Tracked from プロフェッサー・オカピー.. at 2006-11-09 17:53
タイトル : 映画評「二十四時間の情事」
☆☆☆☆(8点/10点満点中) 1959年フランス=日本映画 監督アラン・レネ ネタバレあり... more
Tracked from 良い映画を褒める会。 at 2008-05-26 00:57
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 ナチ・イーグルの威圧的な映像が前世紀に製作された二大プロパガンダ(もう一方は『戦艦ポチョムキン』)の幕開けを告げる。第一次世界大戦の勃発と敗戦という結果がもたらした悲劇的な、そして惨めな戦後ドイツ国内の様子と苦悩を述べた後、カメラは雲の上を闊歩するような軍用機中に移動する。... more
Commented by オカピー at 2006-11-09 18:02 x
該当作品ではありませんが、TB返し致しました。
スパムはテロリストであって、国家ではありませんねえ。タリバンが本当の政府であれば、異教徒の残したものとは言え、バーミヤンの石窟は破壊しなかったはず。彼らはやはりテロリストであって似非政府ですね。

本作は、大昔に観て以来ご無沙汰ですが、オカピー・ライブラリーには勿論あるのです。しかし、新作もあることですし、手がつかない状態。「幸福」と言い、時間が倍にならないとなかなか観られません。
Commented by Tom5k at 2006-11-10 00:45
>オカピーさん、どうも。
レネとクレマンのこの相互TBは、ブログにおけるトラック・バックのモンタージュかもしれませんね。(笑
>バーミヤンの石窟は破壊しなかったはず
う~ん、これは衝撃的でしたね。もの凄い破壊主義です。ある意味、大戦中より、人間の退廃は進んでしまっているのではないでしょうか?恐ろしいことです。本当にテロって恐い。
いずれにしても、今後も「熱い本物」を探し、身につけてていきたいものですね。
>オカピー・ライブラリー
本館の「名画100選」「IMDbベスト250」「ジャンル別ベスト」「衛星映画劇場採点表」などから想像させていただいてますが、ワクワクしてしまいますよ。よだれが出てきそうです。
では、また。
Commented by 用心棒 at 2008-05-26 00:56 x
 こんばんは!ナチも共産側も、プロパガンダ映画には感情を揺さぶり、誘導していくための「毒」となる要素が必ず仕込まれていますね。
 人類を破滅に導こうとしたナチでさえもあれほど美しく魅力的に撮ってしまうレ二は彼女の才能自体が重い十字架となり跳ね返ってきてしまいました。
 ワーグナーも然りで、彼の作品には血の匂いを嗅ぎ取れます。その危なさがまたたまらない魅力でもあります。ではまた!
Commented by Tom5k at 2008-05-26 21:24
>用心棒さん、こんばんは。
そもそも、映画はプロパガンダの要素が、非常に強いですよね。だからこそ、いわゆる「赤狩り」のときも真っ先に映画人たちが犠牲になったわけですし。
エイゼンシュテインもスターリンに利用され、検閲されたわけです。
ただ、何故かムッソリーニもヒトラーもファシストたちは映画好きで、映画人が育つ土壌を作ったのも彼らかもしれません。レニもそのひとりなのでしょうね。
観客としては、どのような映画を観ても、主題を取捨選択できる主体性を持ちたい者です。映画を観て何を想起するか、できるか、観る側の課題だと思っています。
では、また。
Commented by mchouette at 2008-06-23 00:54
トムさん熱きレビュー拝読しました。
>単に歴史上の事実のみならず人類史の遺産として認知されるべきことであるとわたしは思うのです。
そしてそれを描いたルネ・クレマンの「パリは燃えているか」は貴重な作品だと今回つくづく思いました。
芸術は一国だけのものでなく人類の遺産だということ。ヒトラーはそれを我が手中に独占しようとした。
>偽物が本物に勝利することなど決して不可能なことなのです。
国家の歴史を振り返ると、物語っていますよね。
Commented by Tom5k at 2008-06-23 19:14
>シュエットさん、こちらにまでコメントありがとう。
つい単純なレジスタンス賛美になってしまっているかもしれません。でも、あながち間違ってもいない解釈と思っています。だからといってワルシャワが本物でないとか、日本でも甚大な被害を受けた東京・広島・長崎・沖縄がほんものでない、ということは絶対ないのですけれど、京都・奈良はほんものなのだと思います。
また、それは、文化・芸術を含めて、人類史における淘汰が自然界の淘汰(強者・弱者の論理)と異なり、ヒューマニズムか、それに非ずか、におけるものだと、わたしは固く信じているところです。
では、また。
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