『私刑警察』①~守るべき自由~

わたしの学習ノートに 教室のわたしの机や樹々に 砂のうえ 雪のうえに
わたしは書く きみの名を

読んだすべての白いページのうえに 石や血や紙 また灰のうえにも
わたしは書く きみの名を

金色の画像に 戦士たちの武器に 王たちの冠のうえに
わたしは書く きみの名を

ジャングルや砂漠のうえに 鳥の巣やエニシダのうえに わたしの幼い日々のこだまのうえに
わたしは書く きみの名を

夜ごとの不思議に 日々の白いパンに 婚約した季節季節のうえに
わたしは書く きみの名を

すべてのわたしの空色のぼろきれに かびのはえた太陽を映す池のうえに 息づく月を映す湖のうえに
わたしは書く きみの名を

野のうえ 地平線に 鳥たちの翼のうえに 影たちの粉ひき小屋のうえに
わたしは書く きみの名を

暁の一息ごとに 海のうえに 錯乱した山のうえに
わたしは書く きみの名を

雲の泡に 嵐の汗に 味気なく降りしきる雨のうえに
わたしは書く きみの名を

ものの形のきらめくそのうえに 色とりどりの鐘のうえに 物理学の真理のうえに
わたしは書く きみの名を

めざめた小径のうえに 拡がる街道のうえに あふれ出す広場のうえに
わたしは書く きみの名を

ともるランプに 消えるランプに 寄り集まるわたしの家々に
わたしは書く きみの名を

ふたつに切り分けた果実 鏡とそしてわたしの部屋に 空っぽの貝殻 わたしのベッドのうえに
わたしは書く きみの名を

食いしん坊で優しいわたしの犬に ぴんと立ったその耳に ぶきっちょなその足に
わたしは書く きみの名を

踏切台のように弾むわたしの扉に 慣れ親しんだ数々のものに 祝福された焔の流れに
わたしは書く きみの名を

許し与えられた全身に わたしの友人たちの額に さしのべられた手のおのおのに
わたしは書く きみの名を

驚いて見る窓のガラスに 待ち受ける唇のうえに 沈黙をはるか下に見おろして
わたしは書く きみの名を

破壊されたわたしの隠れ家に 崩れおちたわたしの灯台に わたしの退屈という壁のうえにも
わたしは書く きみの名を

欲望を失った不正のうえ むきだしの孤独のうえ そして死の行進に
わたしは書く きみの名を

もどって来た健康に 消え去った危険に 思い出のない希望に
わたしは書く きみの名を

そしてただひとつのことばの力を借りて わたしは人生をもう一度始める
わたしは生まれたのだ
きみを知るために
きみを名づけるために

自由と


ポール・エリュアール『自由 Liberte 』(1942年)
(宇佐美斉 編・訳1994年 小沢書店刊「エリュアール詩集」より)


 『私刑警察』では、正義警察と呼ばれる警察内部の極右組織が共産主義者・自由主義者たちを標的にして、テロ行為を繰り返していきます。ファシズム期のゲシュタポを思い起こさせる緊張感がうまく表現されていて、過去すでにアラン・ドロンとジョセフ・ロージーによって、ファシズムの本質的な恐怖が描かれていた名作『パリの灯は遠く』があったことを思い出しました。
 この『私刑警察』ではペール・ラシェーズ墓地が舞台のひとつに選ばれています。これは印象に残る舞台設定であり、作品の主題が明確になる要素であったように思います。

 フランスの革命詩人ポール・エリュアールの『自由』は、彼が第二次世界大戦時下においてレジスタンス運動中に発表した詩です。
 この詩は彼の最愛の妻ヌーシュに捧げられ、詩中の「きみ」は彼女のことだと言われていますが、レジスタンスの闘士であったエリュアールは解放されていない多くの市民たち、共に闘う同志たちに希望と勇気の源泉を与えるために、自身の妻に対する愛情を「自由」という言葉に置き換えたのだそうです。

 自由と平和を取り戻すために闘う多くの市民や抵抗運動の同志とともに、詩の創作によってナチスの圧制に対峙し、生き抜いていったポール・エリュアール。

 彼は1952年に56歳で命を燃やしつくし、ペール・ラシェーズ墓地(Cimetieredu Pere Lachaise)にて埋葬されました。

自由―愛と平和を謳う
Claude Goiran こやま 峰子 ポール エリュアール クロード ゴワラン / 朔北社
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by Tom5k | 2005-03-06 19:35 | 私刑警察(4)