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『冒険者たち』②~『グラン・ブルー(グレート・ブルー)』からの賛美~

 ジョゼ・ジョバンニが関わっている作品は、すべて愛すべき素晴らしい作品ばかりだとは思いますが、淋しくて悲しくなってしまうものばかりです。

 この『冒険者たち』もすべてが、淋しく悲しいのです。ローラン、マニュ、レティシア3人の生き方は悲しくてやりきれません。初めから勝利をつかむことなど、とても無理なのに冒険に全てを賭けてしまう大人になりきれない冒険者たち...。
 レティシアの彫刻の材料が自動車の鉄くずであることや、批評家にさんざんな悪態をつかれてしまう個展も、そして、死とその水葬、貧しい故郷・・・特に博物館の管理をしている朴訥な従弟の少年・・・。
 マニュの片想い、友情を大切にしてしまうローラン、レティシアの死、残された2人の淋しさ、レティシアの故郷を訪れたローランとマニュ、マニュたちに誤解されたまま死んでしまったパイロット、ローランの優しいうそ「レティシアはお前と暮らしたいと言っていた」
それに
「この大うそつきめ。」
と笑いながら死を迎えるマニュ、ラストの延々と続く空からのナポレオンの作った要塞島フォー・ボイヤーの景観、そして、アラン・ドロンの唄う「愛しのレティッシア」の唄(日本ヘラルド映画版)、わたしにはこの作品のすべてが淋しくて悲しいものばかりです。

 アラン・ドロンの唄うこの「愛しのレティッシア」は、彼の淋しい心がとてもたくさん伝わってきます。もしかしたら、主演したアラン・ドロンもハリウッド映画からフランス映画に復帰したばかりで、どこかに淋しく、悲しい孤独な気持ちをまだ残していたのかもしれません。

 レティシアという女性は特に悲しいです。
 『冒険者たち』を想い出にしている世代の多くが、70年代の団塊の世代の人たちだと思います。特に、このレティシアは70年代のシンボルのようなキャラクターであり、『あの胸にもういちど』のレベッカとともに、これら作品の雰囲気が70年代のサイケデリック・カルチャーを象徴する女性の典型のように見えます。
 死んでしまったレティシアが潜水服に包まれ二人の男に抱かれるかのように海底深くに埋葬されるシーンには、クリスチャンヌ・ルグランのスキャットが流れ、心が張り裂けそうになるほど美しく悲しい場面です。極端に言えば、この作品はレティシアの映画なのではないでしょうか。

 監督のロベール・アンリコは、ほとんどの作品をフランソワ・ド・ルーペと組んで創っています。ロベール・アンリコ監督が創り出したこの作品の映像の美しさは、ジャン・ボフェティのカメラによることはもちろんです。しかし、フランソワ・ド・ルーペの音楽による効果が映像の美しさと悲しさの表現を倍加していることも忘れてはならないことだと思います。

アンソロジー(2)
フランソワ・ド・ルーペ ブリジット・バルドー / BMGファンハウス





 彼は趣味だったスキューバ・ダイビング中に事故で若いうちに無くなってしまったそうですが、それはまるで、後にこの作品の影響を強く受けたと言われているリュック・ベッソン監督の『グラン・ブルー(グレート・ブルー)』の主人公たちのようです。

グラン・ブルー (グレート・ブルー完全版)
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 リュック・ベッソン監督は、ジャン・ジャック・ベネックスやレオス・カラックスとともに「BBC」と呼ばれ、1980年代以降のフランス映画界を背負って立っている世代と言われています。
 彼らの特徴は、BD(バンドデシネ)といわれるフレンチコミックス(フランス・ベルギーを中心とした地域でのコミック)から多くの影響を受けているのだそうです。
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ジャン・ジャック・ベネックスの代表作





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BDを代表する漫画家エンキ・ビラルの代表作。本人の演出で映画化。





 これにより『アルファヴィル』や『死刑台のエレヴェーター』『二重の鍵』などSFやサスペンスを現実的なパリにおいて描いていた「ヌーヴェル・ヴァーグ」の手法とは、全く異なった現実離れの虚構デザインで舞台設定した作品群を多く生みだしています。
アルファビル【字幕版】
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 しかし、わたしは彼らの題材そのものの選択においては、「ヌーヴェル・ヴァーグ」の作品群と共通のものがあるような気もしています。

 この3人の中でも特に注目すべきなのが、リュック・ベッソン監督の多彩な才能だと思います。彼もまた『最後の闘い』、『サブウェイ』、『フィフス・エレメント』などを観ると、BDの影響の例外に漏れない作風です。
 そして、ジャン・ジャック・ベネックスとともに「ヌーヴェル・ヴァーグ」の批判者であり、クリスチャン・ジャックの『花咲ける騎士道』を再映画化したことなどは、その典型的な反骨であるとも言えましょう。
サブウェイ(仏語オリジナルヴァージョン)
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 また、フランス映画史上では、どの体系にも位置づけることが難しいロベール・ブレッソンの『ジャンヌ・ダルク裁判』の題材も『ジャンヌ・ダルク』で活用しているように見えまし、『ニキータ』や『レオン』などは、フランス伝統の「フィルム・ノワール」の復活を狙った作品とも言えるような気がします。
ジャンヌ・ダルク裁判
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ジャンヌ・ダルク
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 更に海洋ドキュメンタリーの『アトランティス』は、『グラン・ブルー(グレート・ブルー)』と同様に海をテーマにしたものですが、「沈黙の世界」でベストセラー作家となったジャック・イブ・クストーがルイ・マルと共同監督した海洋ドキュメンタリー諸作品の影響を強く受けているとも考えられます。
アトランティス
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 リュック・ベッソン監督は、ご両親がスキューバ・ダイビングのインストラクターであったため『グラン・ブルー(グレート・ブルー)』の舞台であった地中海沿岸で育ったそうです。
 ロベール・アンリコ監督の『冒険者たち』のコンゴ沖の海の美しさと、リュック・ベッソン監督の『グラン・ブルー(グレート・ブルー)』の地中海の美しさは共通するものを多く持っています。そして、登場人物たちの感性も。
 エンゾの死とレティシアの死、マニュとローランの友情とジャックとエンゾの友情、都会の喧噪を嫌うジョアンナとレティシア、そして、素晴らしい海の美しさと、人間同志と海への愛情、死の哀しみと寂寞。

 主人公の女性のジョアンナという名とともに『グラン・ブルー(グレート・ブルー)』が『冒険者たち』への賛歌であるとわたしにも感じる取ることができました。そのとき、わたしはリュック・ベッソン監督の作品が、フランス映画史を全て吸収しようとしているかのようにも感じたのです。

 それと同時に、彼の才能に今までのフランス映画を超える素晴らしいの作品を、多く量産して欲しいと期待してしまうことを禁じ得ませんでした。

by Tom5k | 2006-01-03 00:57 | 冒険者たち(3) | Trackback(2) | Comments(13)

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Tracked from マジック・映画について思.. at 2006-01-05 22:16
タイトル : 冒険者たち/Les Aventuriers
1967年のフランス映画です。 主演はアラン・ドロンとリノ・ヴェンチュラ。 アラン・ドロンはとても好きな俳優さんで出演作品はかなり観ていますが、特に気に入った映画はDVDも購入していて、この『冒険者たち』もその中の一本です。 パイロットのライセンスを剥奪されたマヌー(アラン・ドロン)、心血を注いでいたエンジン開発が頓挫したエンジニアのローラン(リノ・ヴェンチュラ)、芸術家として認められず無力感に浸るレティシア(ジョアンナ・シムカス)。この3人が希望を求めてコンゴに宝探しの旅に出ます...... more
Tracked from プロフェッサー・オカピー.. at 2007-07-31 02:22
タイトル : 映画評「冒険者たち」
☆☆☆☆☆(10点/10点満点中) 1967年フランス映画 監督ロベール・アンリコ ネタバレあり... more
Commented by ヘンリー at 2006-01-05 22:15 x
トムさま。おめでとうございます。本年も当ブログをよろしくお願いいたします。
さて、①と合わせて興味深く拝見させていただきました。
「グラン・ブルー」は私も大好きな映画です。もちろん「冒険者たち」も。
>恐らく主演したアラン・ドロンもハリウッド進出の挫折から立ち直り切れておらず、・・・
ですが、私はちょっと違う意見です。私はドロンはハリウッドを見限ったと解釈しています。ハリウッド時代よりもフランスに帰ってからの方がよほど彼らしい演技に溢れている、と思うのです。
だから、ハリウッドが受け入れなかったんじゃなくって、ドロンが「見限った」のかなと。
馴染めなかったと言えば、それまでと思いますが。
では、また。
Commented by Tom5k at 2006-01-07 23:53
>ヘンリーさま
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
確かに、アラン・ドロンは挫折から立ち直れないような弱い人間では無いですね。おっしゃるとおりでございます。
Commented by ヘンリー at 2006-01-12 23:25 x
こんばんわです。
私のようなもののコメントで修正いただくなんて恐縮でございます。
でも、フランス映画やイタリア映画についての知識や洞察はトムさまの方がはるかに上と思いますよ。観易さのせいかもしれませんが、私はどちらかというとアメリカ映画に偏ってしまっています。米:仏:その他=5:3:2くらいまでになるかもしれません。
フランス映画についてはトムさまのブログで勉強させていただくことが多いです。これからも読ませていただきます。
では!
Commented by Tom5k at 2006-01-14 17:05
>ヘンリーさま
ありがとうございます。また、ご意見など、いただきたいと思っています。わたくしも、アメリカ映画で優れたものも多くあると思っています。
Commented by ヘンリー at 2006-03-10 00:03 x
トムさま。お久しぶりです。
トムさまがこの記事で紹介されているジャック=イブ・クストーのDVDを観ました。素晴らしい映画ですね!
というわけで、私のブログで紹介したいのですが、トムさまのブログへリンクを張らせていただいてよろしいでしょうか?
リュック・ベッソン氏は明らかにあの映画を意識して「グラン・ブルー」を撮影していますよね。ワクワクしながら観てしまいました。
こんな気持ちはかなり久しぶりです。
ありがとうございました。
あと、お気に入りにしていただきありがとうございます。
私のブログはそのような機能は無いようで…。
そちらもありがとうございました。
では、また!
Commented by Tom5k at 2006-03-11 16:48
>どうも、ヘンリーさん
ヘンリーさんのブログでご紹介いただける予定とは光栄です。
リンク等はことわりなく、どんどんはってください。わたしにとっては、たいへんうれしいことです。
なお、クストーの3作品は、実は、わたしは『沈黙の世界』のみ、以前に観たのみです。アカデミー賞のドキュメンタリー部門、カンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞した作品だそうです。
それから、リンクの貼らさせていただいていること、申し遅れましたが、よろしくお願いします。
Commented by ヘンリー at 2006-03-11 19:42 x
>トムさま
快諾いただきましてありがとうございます。
更新しましたら、その際は改めてご連絡させていただきます。
では、失礼いたします。
Commented by ヘンリー at 2006-03-26 12:43 x
>トムさま
何とか記事をアップ出来ました。
ですが、なんか上手くまとめられませんでした。ご意見いただけると幸いでございます。
では、また!
Commented by Tom5k at 2006-03-26 20:48
>ヘンリーさま
わたしのいい加減な記載から、誠意あるブログ記事を作成され、たいへん恐縮しております。また、ご紹介していただいたことにも感激しております。ありがとうございました。
そちらには、近々、コメントさせていただきたいと思っております。
Commented by オカピー at 2007-07-31 02:30 x
たまにはこちらから出かけてきました。^^;

悩みましたが、遂に書きましたよ。
私は本作を友情を軸にした、青春へのレクイエムの作品と理解しました。撮影も音楽も素晴らしい、絶品です。

私もレティシアの水葬場面のスキャットについて書いたのですが、文脈の中で浮いてしまうので泣く泣く(笑)削除しました。文章の流れは良くなったのですが、残念でした。
Commented by Tom5k at 2007-08-01 00:20
>オカピーさん、コメント・TB、ありがとうございました。
>青春へのレクイエム
これ一言ですべてが言い表されております。また、記事のアップに悩まれても書かれる勇気、大切なことだと思います。
それにしても、最近、用心棒さんもドライヤーの『ヴァンパイア』の記事のアップを躊躇われていたとのことです。やはり名作群の数々、安易に手を出せない何かが発露されているのでしょうね。

>レティシアの水葬場面のスキャット
映画が音楽を持っていること、観ることと聴くことが同時のものであることが、血の滲むような試行錯誤から生まれたものだと聞きます。「映画音楽」の映画における効果を意識すると言葉にすることが難しくなってくるのかもしれませんね。
特にその文脈においては、オカピーさんのような真面目な映画ファンは躊躇されるのが当然なのかもしれません(わたしは安易にさらりと書いてしまいましたが(笑))。
それにしても映画ファンは眼も耳も鍛えなければなりません。それも映画眼の向上のひとつと思えば楽しいです。
では、また。
Commented by mchouette at 2008-09-17 17:49
トムさん、先ほどオカピーさんとこにもTBしに行って「青春のレクイエム」まさにそうだと思いました。私が孤独がどうだこうだといっていた、それはまさにこのオカピーさんのこの一言に集約されます。
ベッソンがオマージュをささげた「グラン・ブルー」は私には、いささか退屈な映画でした。ベッソンは映像表現は素晴らしくて酷評された、でも用心棒さんは褒めてた「アンジェラ」もその映像は好きですけど、「最後の闘い」「サブウェイ」「ニキータ」あたりまでは大いに気に入ってたんですけどね、最近はどうも…です。まぁ私の場合は根拠もなく直感の好き嫌いしか判断基準がありませんけどね(汗)
Commented by Tom5k at 2008-09-17 23:06
>おおっ、シュエットさんもオカピー評で啓蒙されましたね。わたしのような主観だらけの記事は批評でも何でもなく、単なる小難しい感想ですので、あしからず。
>「グラン・ブルー」
あっ、そうでしたか。
意外だな、わたしはベッソンのこの作品好きですが・・・。
でも、確かにハリウッド・ナイズされて、表層的な作風の作品が多くなったようには思いますね。残念なことです。コッポラもスピルバーグもそうなんですよね。何でだろうな?きっとお金持ちになり過ぎて創作意欲がビジネスになってしまってるのかなあ?
そういう意味ではヴィスコンティや黒澤の儲けたお金を全部、次作品につぎ込むような、徹底した映画愛に欠けているような気がしますよね。
ゴダールの現代映画への批判も同様で、彼は映画が道を誤ったのはMGMのタルバールの就任からだと明言しています。用心棒さんやオカピーさん、姐さん、豆酢さんたちの今の映画への悲観と全く同じだと思います。
>直感の好き嫌いしか判断基準・・・
楽天的なのはわたしとシュエットさんくらいでしょうか?(笑)
では、また。
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