『冒険者たち』①~アラン・ドロン「フレンチ・フィルム・ノワール」への助走~

 1950年代にフランス映画界で最も活躍したジャック・ベッケル監督は、大監督ジャン・ルノワールと最も親交の厚い師弟関係にあった人です。彼はジャン・ルノワール監督から多くの影響を受け、「フレンチ・フィルム・ノワール」を『現金に手を出すな』や『穴』で完成させていった歴史的な映画監督です。
 その作風は「フレンチ・フィルム・ノワール」作品以外にも多岐にわたり、優れたものばかりだそうですが、最も有名なのは、ジャン・ギャバンを主演にした『現金に手を出すな』でしょう。わたしは、この作品が、それまで主流であった「詩(心理)的レアリスム」の中でも、特にアメリカのハワード・ホークスの影響を受けていた暗黒街を舞台にしたジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『望郷』や、マルセル・カルネ監督が脱走兵の絶望的な恋愛を描いた『霧の波止場』などの系譜をクールな男の美学に昇華し、パリの夜を舞台にした典型的な「フィルム・ノワール」作品として貫徹させたものだと思っています。しかも、主演はジャン・ギャバンです。
Stockholm Concert 1966
Ella Fitzgerald Duke Ellington / Prestige/OJC





 そして、ディーク・エリントンを師事し、ジャズが大好きであったジャック・ベッケル監督は、「フレンチ・フィルム・ノワール」の主題を、パリの暗黒街を舞台に「グリスビーのブルース」というモダン・ジャズによって表現したのです。

 1957年、ルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』で使われたマイルス・デイヴィスのトランペットは、その後にシネジャズという体系を創り出しましたが、それより3年前の1954年、この「グリスビーのブルース」に影響を受けていたとはいえないでしょうか?
死刑台のエレベーター(完全版)
マイルス・デイビス ピエール・ミシェロ ルネ・ユルトルジュ バルネ・ウィラン ケニー・クラーク / ユニバーサルクラシック




 そして、『穴』ですが、これも徹底して無駄な装飾を省き、男性的で寡黙な行動美で貫かれています。
 後にアラン・ドロンと素晴らしい「フレンチ・フィルム・ノワール」作品を創り出していったジョゼ・ジョヴァンニ監督。彼は犯罪者であった経験を持っています。『穴』は彼がギャング時代、ラ・サンテ刑務所からの脱獄経験から著した同名小説の映画化です。
穴〈デジタルニューマスター版〉
/ ビデオメーカー





 主演は極刑を受けた5人の個性的な服役囚です。「神父」の渾名のヴォスラン、女好きなジョー、新顔のガスパール。

 そして、マニュとローランです。

 マニュとローランは、レティシアとコンゴで財宝を探すロマンチックな冒険の前に、こんな恐ろしい刑務所からの脱獄に挑戦していたのです。

 ジョゼ・ジョバンニは、この作品のシナリオを担当し、映画界でのキャリアが始っていきました。同様に『冒険者たち』の原作もシナリオも、彼が務めました。
 その後、『冒険者たち』のリメイク(後日譚)を『生き残った者の掟』として、自ら監督デビューを果たしたわけです。

 『生き残った者の掟』では、マニュもローランも仲間との絆の大きさを失った喪失感の方が手に入れた財宝よりもずっと大きく、ローランなどは所帯を持って身を固めてしまっています。
 マニュも心の隙間を埋める為に売春宿に通い、そこで一人の女に巡り会います。その女はわけあって、そこに囚われていますが、マニュはその女に惚れきってしまいます。そして、ふたりは愛し合い、そこから運命の逃避行。しかし、その女の隠されていた過去は償いきれない仲間への裏切りだったのです。
 裏切り者として「生き残った者の掟」は残酷で悲しく、やりきれないものが残りました。
生き残った者の掟
ジョゼ・ジョバンニ 岡村 孝一 / 早川書房





 ここでは『穴』でジョーを演じたミシェル・コンスタンタンがマニュを演じました。彼は本当にパリのヤクザのような風貌です。この『生き残った者の掟』では、ハードで自然な演技により、見事に男の世界、男の美学を創り出しました。

 非常に不思議なことなのですが、彼は主演、助演にかかわらず多くの暗黒映画に出演しており、彼の共演者たちもアラン・ドロンと組んだ多くの監督、俳優と一緒に仕事をしています。それにも関わらず、アラン・ドロンとだけは共演していないのです。このことは、以前から本当に不思議で仕方がありませんでした。
 監督でいえばロベール・アンリコ、ジャン・ピエール・メルビル、ジェゼ・ジョバンニ、テレンス・ヤング、ジョルジュ・ロートネル、ジャック・ドレー、アラン・カヴァリエ。 共演者ではジャン・ポール・ベルモンド、チャールズ・ブロンソン、リノ・ヴァンチュラ、ミレーユ・ダルクそしてジャン・ルイ・トライティニャンとまで共演しています。他にもクラウディア・カルディナーレ、ポール・ムーリス、ウルスラ・アンドレス、センタ・バーガー、ブールヴィル、ミシェル・ブーケ、ベルナール・フレッソン、クルト・ユルゲンス、アン・マーグレット、マルセル・ボズフィ等々
 ともにマニュを演じ、「フレンチ・フィルム・ノワール」の立役者であったふたりが共演した作品をわたしは是非とも観たかったのですが、本当に残念でなりません。

 いずれにしても、わたしは、アラン・ドロンが後にジャン・ギャバンの後継者の代表格として、多くの「フレンチ・フィルム・ノワール」の傑作で主演を務めていくことになった原点のひとつが、この『冒険者たち』で主演を務めた経験にあると思うのです。
 彼は『冒険者たち』の主演の一人として、この作品が創作されるまでの歴史を肌で感じ取ったこと、特に原作者であり、シナリオを担当していたジョゼ・ジョバンニとの接点が、その後の「フレンチ・フィルム・ノワール」に貢献した非常に大きな要因だったのではないかと思っています。re
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by Tom5k | 2005-12-30 16:59 | 冒険者たち(3)