『地下室のメロディー』①~「アラン・ドロン」の原型 古き良き時代の「セリ・ノワール」~

 「フレンチ・フィルム・ノワール」の大スターであるアラン・ドロンの原点は、全てこの作品に詰まっています。全盛期の『サムライ』、『さらば友よ』、『ボルサリーノ』、『スコルピオ』、『ビッグ・ガン』、『ル・ジタン』、『友よ静かに死ね』、『危険なささやき』等々。後半期の『私刑警察』や『ハーフ・ア・チャンス』でさえも原点はここにあると、わたしは思います。

 何故か?
 「フレンチ・フィルム・ノワール」の大御所といえば、言わずと知れたジャン・ギャバンその人でしょう。ジュリアン・デュヴィヴィエの『望郷』、マルセル・カルネの『霧の波止場』、ルネ・クレマンの『鉄格子の彼方』、そして、ジャック・ベッケルの『現金に手を出すな』、ジャン・ドラノワ、ジル・グランジェのメグレ警視シリーズ。
(現在の「フレンチ・フィルム・ノワール」作品の定義では、『現金に手を出すな』より以前のノワール的な作品が含まれていませんが、私はこれらもその体系にあると考えています。)

望郷

ジェネオン エンタテインメント


霧の波止場 Blu-ray

IVC,Ltd.(VC)(D)


鉄格子の彼方 [DVD]

ジュネス企画


現金に手を出すな Blu-ray

IVC,Ltd.(VC)(D)


殺人鬼に罠をかけろ

ビデオメーカー


ジャン・ギャバン主演 メグレ警視シリーズ サン・フィアクル殺人事件 [DVD]

竹書房



 既に戦前から、ドロンと初共演するまで、この他にも数え切れないほどの「フレンチ・フィルム・ノワール」の大傑作を創り出しています。
 『地下室のメロディー』は、アラン・ドロンが初めて主演した「フレンチ・フィルム・ノワール」の作品です。幸運なことに、ジャン・ギャバンとの共演でスタートを切ることができ、アラン・ドロンは、フランスにおける「フィルム・ノワール」の原点の多くを学び、その後の彼の作品にも大きな影響を反映させていくことができたのだと思います。

 また、ジャン・ギャバンとアラン・ドロンとは共通点が多くあります。
 妻に先立たれ、息子をもてあました父親はジャンを高等学校寄宿舎に入れてしまいます。我慢できなかったジャンは寄宿舎を飛び出して周囲を困らせました。仕事の転職も数知れません。自動車のセールス、道路工事の人夫、鉄工所の労働者、鉄道員、バーテン、クラブ歌手、そして、海軍に志願し、海上勤務までしています。

 ドロンのデビュー前と似ていると思うのはわたしだけでは無いでしょう。
 だからなのでしょう。いつも、ギャバンとドロンのコンビは、本当にピッタリ息が合っています。

 そして、ジャン・ギャバンの作品の多くは、「ヌーヴェル・ヴァーグ」の若手映画評論家たちに批判されていった古き良き時代のフランス映画、それをを支えていた「詩(心理)的レアリスム」黄金時代の巨匠ジュリアン・デュヴィヴィエ監督、マルセル・カルネ監督やジャン・ドラノワ監督たちとの作品でした。そのなかには、ルネ・クレマン監督の作品もあります。
 しかも、当時のアラン・ドロンの作品も、フランス作品に限っては、ルネ・クレマン監督やジュリアン・デュヴィヴィエ監督の作品が中心でした。
 恐らく、彼にとって、これほど心強い親分はいなかったでしょう。

 『地下室のメロディー』は、そんな二人のコンビネーションが本当に良くかみ合って作られています。
 ジャン・ギャバンもアラン・ドロンもその気になればどんな仕事だって難なくこなせます。普通に地道に働けば、人並み以上の実績や業績を残せるはずです。だけど、そんな風に器用で優秀だから、まじめに働くのがばからしく、一発当ててやろうと思い、また、懲りもせず、夢に生きてしまうのです。
 それでも、ジャン・ギャバン演じるシャルルは決して、貧しい庶民から、搾り取ろうという生き方は大嫌いです。
「安月給のサラリーマンから金をとるほど悪趣味じゃない。」
 シャルルは妻のホテル経営の話しを嫌います。

 そして、20歳代も半ばを過ぎ、まだ、親や姉夫婦のスネをかじっているアラン・ドロン演じるフランシス。そんな彼にムショ仲間のシャルルから思いもかけない大仕事が舞い込んできました。コートダジュールにあるリゾート・ホテルのカジノにある「10億フラン」をそっくりいただこうという話です。

 フランシスからすれば、
「どうせ、口うるさいおふくろには、毎日ガミガミお説教だし、一年間のムショ仲間でしかないシャルルが自分をここまで見込んでくれたんだ。」

 シャルルとフランシスの間にはこうして
「女房にはわからない。」
「おふくろに何がわかる。」

 妻や母親、女たちには理解できない男同士の連帯感が芽生えたのです。この二人は、本当に父親と息子のような関係です。

 そして、強盗の計画は・・・ホテルの屋上の空調設備の排出口から、排気ダクトを通じて地下金庫に通じるエレベーターの外側に出て、金庫のある地下室に降りたときに、その天井から金庫内に潜り込み、機関銃で脅して現金10億フランを頂くというもの・・・。
 計画は完璧だったし、その仕事も計画通り、あとは悠々自適の生活が待っているはずでした。

 ところが、翌朝の新聞に掲載された写真はフランシスの超ド・アップです。少々、目立ち過ぎてしまったようでした。直接、犯人に疑われる確率は少ないかもしれないけれど、この地域の周辺では検問・張り込みが厳しくなるのは当たり前で、当然、この新聞も警察の調査資料になっているはずです。何度もこの商売でパクられているシャルルは、警察がどこで犯人を嗅ぎ分けるかを身をもって経験してきています。とにかく、一刻も早くここから安全なところまで逃げなければなりません。すぐに盗んだ札束の入った鞄を持ってくるようフランシスに命じて、ホテルのプールサイドで待ち合わせします。

 ところが、プールサイドへ来ると、もうそこには何人もの刑事たちが現場の捜査に当たっていて、事件の現場であるカジノの金庫にいた男とも話しています。シャルルもフランシスも冷や汗をかきながら、身動きすることができません。

 空調ダクトの排出口から潜りこんだことも、捜査でわかってしまい、刑事たちの立ち話から聞こえてきたのは、二人の年齢や身体的特徴や所持している鞄の特徴でした。そんなことまで、はっきり記録されてしまっているのです。これでは、いくら急いで逃げても、すぐに足がついてしまいます。くやしいけれど証拠隠滅という方法しか残されていません。でも、プールサイドに置きっぱなしにすることは危険すぎます。
「もういいや。プールに捨てちゃえ。」
 フランシスは、こう考えるしかなかったんじゃないでしょうか?

 プールは朝一番の給水作業のために、水がプール全体を循環しており、鞄の蓋も水圧で開いてしまいました。どんどん浮かびあがってくる札束、札束、札束・・・・。
 プールに浮かんでくる10億フランは、まさにあぶく銭です。
 このあとは、二人とも、待っていてくれる優しい奥さん、息子を想うあまり、つい口うるさくなってしまうお母さんの気持ちもわかって、空想みたいな夢を捨て、まじめに、地道に生活したでしょうか。
 いやいや、この二人のことです。性懲りも無く、次のでかい山の相談を始めたに違いありません。

 監督のアンリ・ヴェルヌイユは娯楽・商業映画を最も得意としていた映画監督でしたが、さすがフランス映画の第一人者です。空調のダクトからエレベーターに抜け出ての現金強盗やプール全面に浮かび上がる紙幣などの着想もさることながら、庶民の生活に密着した背景を実に丁寧にうまく描いています。

 戦争で荒廃したパリが戦後の経済成長を遂げていく様子は、服役を終えたシャルルの帰宅途中に映し出されるパリの駅や高層ビル、新築中のアパルトマンから。庶民の暮らしや不満は、シャルルが耳にする列車内での乗客達、ローンで無理してバカンスを楽しんでいるという会話の内容から。決して裕福ではない庶民の暮らしは、しけもくを探して火を付けるフランシスや、子どもを保育所に預けることもできずに、子守りを失業中の弟に頼まなければならない姉一家、下町の義理の兄貴の自動車工場の様子などでよく描かれています。

 また、それとは逆に、コートダジュールにある金持ち専用のリゾートホテルで、カジノやプールで遊びながら優雅に生活をしている人々。
 こういった細部にわたる作品の背景を丁寧に描いているからこそ、犯罪の動機や人間関係、説得力のあるプロットをより鮮明に浮き上がらせることができているのではないでしょうか。

 それにしても、庶民が当たり前のように上等のスーツを身につけて、ロールス・ロイスやアルファ・ロメオ・スパイダーに乗り、優雅にリゾートホテルで何ヶ月もの長期のバカンスの生活をするなんて、バブルのはじけた今の日本では、夢のまた夢になってしまったような気がします。
[PR]

by Tom5k | 2005-10-08 02:45 | 地下室のメロディー(5)