『泥棒を消せ』②~アメリカ映画での「ギャング映画」を優先した「アラン・ドロン」①~

>『ギャング』の成功のあと、なぜ『サムライ』という新規の、しかもリスクのある企画に乗りだされたのですか?
>メルヴィル
 ドロンに連絡をとって、ルスー原作の『フルハウス』にでてくれないかと提案したんだ。ドヴィルがそれを撮る前にね。するとドロンは「IBMプレジデント」タイプライターで打ったまったく愚劣な手紙をよこしたのさ。それには、近々、アメリカ合衆国で一連のもっと重要な企画が控えているので、私の提案には興味が持てないと書かれていた。
 ところが、『ギャング』が当たると、今度は彼のほうから、私と一緒に映画が撮れたらうれしいと言ってきたので、私はルスーのその本を彼に送ったんだ。『ラッキー・ジョー』のタイトルで既に映画化されたことを知らせずに、「三年前、君が断ったものを撮ろう」と彼に言ってね。
 原作を読んだあと、彼は承諾したよ。だが、映画化権を取り直すことができなかったので、私はドロンに『影の軍隊』のジェルビエ役を提案した。しかし彼はその役を断り、他のシナリオで私の関心を引くものはないかどうか尋ねたんだ。
 一九六三年に、国際舞台での活動に打ち込むつもりだと知らされる前、私は彼に当ててオリジナル脚本を一本書いていたので、そのことを彼に告げた。すると直ちに、彼は私にそれを読んで聞かせるよう要望したよ。(略-)
【引用:『サムライ ジャン・ピエール・メルヴィルの映画人生』ルイ・ノゲイラ著、井上真希訳、晶文社、2003年】

 なお、ルイ・ノゲイラ著『サムライ-ジャン=ピエール・メルヴィルの映画人生』での注釈では、「IBMプレジデント」ではなく、「エグゼクティヴ」のタイプライターだそうです。
 それから、『ラッキー・ジョー』(1964年)は、『いぬ』の原作者ピエール・ルスーによる著作であり、ミシェル・ドヴィル監督、ピーター・チェイニー原作のノワール小説のシリーズや『アルファヴィル』で、私立探偵レミー・コーションを演じたエディ・コンスタンティーヌ、『愛人関係』に出演していたピエール・ブラッスール主演で映画化されました。

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 「一九六三年に、国際舞台での活動に打ち込むつもりだと知らされる前、私は彼に当ててオリジナル脚本」とは、もちろん、アラン・ドロンの代表作となる「フレンチ・フィルム・ノワール」の映画史的傑作である『サムライ』(1967年)のことです。

 『影の軍隊』(1969年)は、ジャン・ピエール・メルヴィル監督にとっては、自らのライフ・ワークとしていたほど想い入れの強い作品でした。
 驚かされたことは、アラン・ドロンが、その『影の軍隊』の主人公ジェルビエを演じる可能性があったこと、それをアラン・ドロンに断られたために、1967年に『サムライ』をそれより優先して制作している、つまり『サムライ』の制作は1969年に『影の軍隊』を制作する2年前ですから、ジャン・ピエール・メルヴィル監督が自分の大切なライフ・ワークに取り組むことよりも、アラン・ドロンを自分の作品に出演させることを優先していたことです。

>メルヴィル
 一九四三年にロンドンで『影の軍隊』を見つけたんだ。そしてそれ以来、ずっと映画化したいと思っていた。一九六八年、その昔からの夢をついに実現させるつもりだとケッセルに言った時、彼は二十五年間もそれほど粘り強くひとつのアイディアを追求するなどということがあり得るとは思っていなかったね。
【引用:『サムライ ジャン・ピエール・メルヴィルの映画人生』ルイ・ノゲイラ著、井上真希訳、晶文社、2003年】

サムライ―ジャン=ピエール・メルヴィルの映画人生

ルイ ノゲイラ Rui Nogueira 井上 真希晶文社



 いずれにしても、ジャン・ピエール・メルヴィル監督の『フルハウス』の企画を1963年に断っているアラン・ドロンにとっての「・・・アメリカ合衆国で一連のもっと重要な企画・・・」とはどのような企画だったのかを考えるには、アメリカ映画において、1940年代に隆盛を極めた「フィルム・ノワール」の体系が、その後どのような変遷を辿っていったかをある程度知っておくことが必要です。

 まず、1950年代の「フィルム・ノワール」のひとつの傾向に、「悪徳警官」を扱う作品が増えたことが挙げられます。ロイ・ローランド監督、ロバート・テイラー、ジョージ・ラフト、ジャネット・リー、ヴィンセント・エドワーズ出演『悪徳警官』、リチャード・クワイン監督、フレッド・マクマレイ、キム・ノヴァク出演『殺人者はバッヂをつけていた』(いずれも1954年)、オーソン・ウェルズ監督、オーソン・ウェルズ、チャールトン・ヘストン出演『黒い罠』(1958年)などがその代表作品です。

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 1950年代のアメリカ社会は、テレビの普及・定着によって、テレビ・ドラマが番組として量産されていく時代を迎えます。逆に、ハリウッドでの映画製作はテレビが提供できないアダルト・テーマを主軸にする作品を増やしていきます。
 それは、映画の都ハリウッドの内幕を露わにしながら、サイレント映画時代のスター女優の狂気を描写したビリー・ワイルダー監督、グロリア・スワンソン、ウィリアム・ホールデン主演『サンセット大通り』(1950年)、労働組合と暴力組織の癒着をテーマにしたエリア・カザン監督、マーロン・ブランド主演『波止場』(1954年)などの作品でテーマとなっていました。

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 なお、1960年代になって、イギリス映画『007は殺しの番号(007/ドクター・ノオ)』(1962年)の影響からテレビ映画作品での『0011ナポレオン・ソロ』、『スパイ大作戦』やアクション・スパイ・コメディの『電撃フリント』なども含めて、スパイ映画のブームが到来します。
 後年、ここからスティーブ・マックイーンやクリント・イーストウッドの活躍する「アクション映画」、特に、ポリス・アクションを主体にする傾向がアメリカ映画での主要なポジションに位置づいていくようになっていきます。

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 これらと平行して、現金や宝石の強奪をストーリー・プロットとして扱った作品も盛んに量産されていました。
 ジャン・ピエール・メルヴィル監督も絶賛していたジョン・ヒューストン監督、マリリン・モンロー出演『アスファルト・ジャングル』(1950年)、スタンリー・キューブリック監督のハリウッド映画第一作目の『現金に体を張れ』(1956年)、1970年代に全盛期を迎える「ブラックス・エクスプロイテーション・フィルム」の原点とも言える作品、ハリー・べラフォンテ主演の『拳銃の報酬』(1959年)、ルイス・マイルストン監督、フランク・シナトラ、ディーン・マーティン、ピーター・ローフォード、サミー・デイヴィス・Jr、ジョーイ・ビショップ、シャーリー・マクレーンなど、シナトラ一家総出演の『オーシャンと十一人の仲間』(1960年)などがあります。やはり、シナトラ一家はイタリア系移民が多いようですが、黒人歌手のサミー・デイヴィス・Jrもその一員でした。
 また、ジャン・ピエール・メルヴィル監督も、1955年、現金強奪のテーマでの作品『賭博師ボブ』を既に制作していました。

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 これらの映画の作風から考えたとき、1950年代から1960年代初期のアメリカ映画は、公民権運動、ベトナム戦争への批判などからヒッピーなど若者の既成価値観への抵抗などの影響を受けていくようになり、『俺たちに明日はない』(1967年)から始まっていった「アメリカン・ニューシネマ」の到来が予感できる時代として振り返ることができると私は思っています。

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 この時代には、『手錠のままの脱獄』(1958年)で、手錠に繋がれたトニ・カーチス演ずる白人とともに脱走する逃亡犯を演じたシドニー・ポワチエは、前述したハリー・ベラフォンテ、サミー・デイヴィス・Jrとともに主役級の立場で正当な評価を受けるようになっていきました。
 このことは、映画の制作自体が社会的課題を改善していった結果として注目すべきことですし、それが「アメリカン・ニューシネマ」の時代になって、『夜の大捜査線』シリーズ(1967年~)を皮切りに、『黒いジャガー』(1971年)、『スーパーフライ』(1972年)などを代表にした黒人パワーが全開する「ブラックス・エクスプロイテーション・フィルム」が隆盛を極めていくことになるわけです。

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【参考 アメリカ映画100年帝国 なぜアメリカ映画が世界を席巻したのか? 北島明弘著 近代映画社(SCREEN新書) 2008年】

アメリカ映画100年帝国―なぜアメリカ映画が世界を席巻したのか? (SCREEN新書)

北島 明弘 / 近代映画社



 1950年代以降、1960年代後期のこのようなアメリカ映画の変遷を振り返ると、1940年代の「フィルム・ノワール」は、1960年代後期から1970年代にかけて低予算の社会派の作品にアクションを取り入れていく「ニューシネマ」の傾向に総括されていったように感じられるのです。

 『泥棒を消せ』は1964年の作品です。まさにテーマもこれらの例から漏れることなく、他国からの移民の問題、犯罪者の更生などの社会問題に、宝石強奪などのアクションをプロットに取り入れた構成になっています。

 ここで、アラン・ドロンが演じる主人公エディ・ペダック、ジャック・パランスが演じたエディの兄ウォルターは、イタリア共和国北東部にあるトリエステ出身のアメリカ合衆国への移民です。
 主人公エディは、過去の犯罪経歴から執拗に警察に付きまとわれ失業を繰り返します。
 あてにしていた失業保険の給付金でさえ、受給要件を満たしていないからと給付されませんでした。愛する妻クリスティーヌはエディに隠してナイトクラブでホステスをすることを決心します。そのことを知ったエディは、とうとうその生活環境に耐えきれなくなり、兄ウォルターの計画した宝飾プラチナ強盗に着手することになってしまうのです。
 妻クリスティーヌには、犯罪に手を染めた夫を、到底、理解することはできませんし、強盗仲間の裏切りで一人娘のカティが誘拐されてしまったことから動揺し、その結果、夫への気持ちも離れてしまう展開になってしまいます。


【<『泥棒を消せ』②~アメリカ映画での「ギャング映画」を優先した「アラン・ドロン」②~>に続く】
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by Tom5k | 2016-12-30 23:57 | 泥棒を消せ(2) | Trackback | Comments(0)

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