『ブーメランのように』④~過去に演じた主人公たち、そして、限界点を一歩踏み越えてしまった男たち~

 最近は、『ブーメランのように』の魅力に取り憑かれてしまっています。
 この作品には、アラン・ドロンが過去の代表作品で演じた主人公が数多く再登場しているからです。
 『ブーメランのように』の主人公である実業家ジャック・バトキンは、『太陽がいっぱい』のトム・リプリーがフィリップ・グリーンリーフに、『悪魔のようなあなた』のピエール・ラグランジュがジョルジュ・カンポに成りすますことに成功した姿であることは、既に記事にしました。
【参考~『ブーメランのように』①~貧困・犯罪・差別からの逃亡と挫折~及び『ブーメランのように』②~「フレンチ・フィルム・ノワール」作品で描かれる父性~

 また、この『ブーメランのように』が、翌年に撮った『プレステージ』と同様、『太陽はひとりぼっち』(1961年)での現代ビジネスに生きている者の矛盾を強く表出した作品であることにも触れました。
【参考~『ブーメランのように』③~「アラン・ドロン」のトレード・マーク「悲劇のヒロイズム」最後の作品~
 私は、ピエロの矛盾が、ジャック・バトキンの矛盾に行き着いていったようにも思うのです。恋人とのディスコミュニケーションは、思春期の息子とのディスコミュニケーションへと繋がったのだと・・・。愛息が犯罪に手を染めた原因を手繰っていけば、現代ビジネスの矛盾に行き着くのではないかと・・・?

 そして、また、『ブーメランのように』には、他にも彼が過去に演じた主人公たちが数多く再登場しているのです。
 まず、真っ先に私が想い起こされるのは、過去のギャング時代の仲間たちとの関係です。その典型的な作品として『仁義』が挙げられます。アラン・ドロンが演じた主人公のコレイやイブ・モンタンが演じたジャンセン、ジャン・マリア・ヴォロンテ演じたボージェルが、私には浮かんでくるのです。
 彼らは、ブールヴィルが扮したマッテイ警部が事件担当でなければ、強奪した宝石をせしめて、のうのうと日常を過ごしていたかもしれません。そうなれば、ほとぼりの覚めた頃にコレイがジャック・バトキンのような事業家になることも不可能ではなかったように思います。
 そして、息子の脱獄に協力してくれる仲間は、『泥棒を消せ』や『シシリアン』で組んだ強盗団ではなく、『仁義』でのジャンセンやボージェルだと思うのです。

 ジャック・バトキンが、過去に犯罪を犯して投獄されていたとき、狂人のふりをして免責された逸話からは、『暗殺者のメロディ』のフランク・ジャクソン(ラモン・メルカデル)が想い出されます。ロシアの革命家トロツキーを暗殺したときに上げた彼の絶叫は、まさに狂人そのものだったと言っても言い過ぎではないと思います。
 そもそもアラン・ドロンは人格の破綻した人間を演じることが十八番の俳優です。『ブーメランのように』で、ルイ・ジュリアンが演じた投獄中の息子エディの憧れる父親ジャック・バトキンの過去の犯罪者の逸話は、過去のアラン・ドロンの演じたキャラクターのことを話しているとしか思えませんでした。

 ところで、ジャック・バトキンが最も守りたかったものは・・・?
 言うまでもなく、それは自分が最も愛する息子エディでしょう。
 アラン・ドロンは自分の大切にしている者、愛する者を守ろうとするとき、また、それを守りきれなかったとき、そのときには明らかに常軌を逸してしまいますし、それは決して成功することなく絶望的な結果になります。

『ビッグ・ガン』の主人公トニー・アルゼンタは、愛する家族をマフィア組織に殺害され、復讐の鬼になってしまいますが、友人に裏切られて死に至ります。
『暗黒街のふたり』の主人公ジーノ・ストラブリッジは、弱みに付け込んで愛する妻にまで脅迫まがいの行為に至るミッシェル・ブーケ演ずるゴワトロ警部の横暴に激昂し、とうとう殺害事件を起こしてしまいます。
そして、『愛人関係』では、ミレーユ・ダルク演ずる愛人ペギー・リスターの精神疾患に絶望し、山中で心中を図る弁護士マルク・リルソンを演じました。

【(-略)彼は(アランは)はまた極めて頭のいい男で、その点が私とやった二本の映画での役柄にぴったりだった。その二人、トロツキー暗殺者とムッシュー・クラインは、どちらも非常に頭の切れる男で、自分の行動にはしっかりとした自覚を持っている。ところがある限界点を一歩踏み越えてしまうと、もう判断力を失い、放心したようになってしまう。(ジョセフ・ロージー)】
【引用 『追放された魂の物語―映画監督ジョセフ・ロージー』ミシェル シマン著、中田秀夫・志水 賢訳、日本テレビ放送網、1996年】

追放された魂の物語―映画監督ジョセフ・ロージー

ミシェル シマン Michel Ciment 中田 秀夫 志水 賢日本テレビ放送網

 

 ジョセフ・ロージー監督が述懐しているようなアラン・ドロンの「ある限界点」の典型的な状況に、「自分の大切な者を喪失したとき、喪失せざるを得ない状況にあるとき」が、当てはまるのではないでしょうか?その「一歩を踏み越えた」ときのアラン・ドロンは正常な「判断力」を失ってしまうのです。
 この『ブーメランのように』でも、過去のギャング組織に戻り、護送中の息子を脱獄させ国外逃亡を図る父親として考えられないような最悪の判断をしてしまいます。

 同様に、アラン・ドロンが演じた『ビッグ・ガン』の主人公トニー・アルゼンタも、『暗黒街のふたり』の主人公ジーノ・ストラブリッジも、『愛人関係』のマルク・リルソンも、その判断が誤っているがために決して幸福で納得できる結果にならず、むしろ最悪の結果になってしまう絶望的な主人公ばかりなのです。

 そして、私は、この『ブーメランのように』の原点のひとつに、デビュー間もない頃、ルキノ・ヴィスコンティ監督の代表作品『若者のすべて』で演じた主人公ロッコ・パロンディの存在が頭から離れなくなってしまいました。そこでアラン・ドロンが扮したロッコ・パロンディは、愛する兄シモーネのために、彼にレイプされてしまった自分の恋人を譲り、遊行による彼の借金までも肩代わりし、とうとう殺害事件まで起こしてしまった彼を最後までかばおうとするのです。
 このことから、ロッコ・パロンディが、『ブーメランのように』で、ドラッグ・パーティの現場で誤って警察官を射殺してしまった息子エディを救おうとするジャック・バトキンの原点だと考えるようになりました。

 社会で許されることのない生き方をしてしまったシモーネとエディ、犯罪を犯してしまった若者の更生が不可能だとは思いませんが、アラン・ドロンが演じたロッコ・パロンディやジャック・バトキンの行為が、本当の意味で彼らを救うことはないでしょう。それどころか、彼が施した行為によって、シモーネやエディは、益々、自分の罪を自覚することが不可能になってしまうように思います。
 そう考えると、いくら絶望的な状況に置かれてしまった肉親であっても、兄シモーネに対するロッコ、息子エディに対するジャックの行為には哀しい悲劇しか準備されることはなかったのです。

【>宮崎総子
『太陽がいっぱい』も本当にきれいだったと思うんです。それから『若者のすべて』もすごく良かったと思うんです。そのたびにね。アラン・ドロンさんというのは、ああいう人だと思っちゃうんですね。
>アラン・ドロン
役には必ず自分自身が投射されるものです。どんな役でも演じる俳優の個性がはっきり出てきますよ。
(-中略-)
>宮崎総子
今までいろんな監督と出会っていると思いますけどね。ヴィスコンティさんとか。本当に世界で一流の。どなたからたくさん影響を受けていらっしゃいますか。
>アラン・ドロン
私の人生では5人の大切な大監督が挙げられます。最も影響を与えてくれた人々はビスコンティ、ルネクレマン、アントニーオーニー、ローゼ、メルヴィル。私の人生のいろいろな時期にこうした人たちから影響を受けました。】
【「モーニングジャンボ奥さま8時半です』「総子がせまる!いい男コーナー たまらなく男ざかり!アラン・ドロン」インタビュー:宮崎総子、1983年11月8日:毎日放送】

 ルネ・クレマン監督のトム・リプリー、ルキノ・ヴィスコンティ監督のロッコ・パロンディ、ミケランジェロ・アントニオーニ監督のピエロ、ジャン・ピエール・メルヴィル監督のコレイ、ジョセフ・ロージー監督のフランク・ジャクソン・・・。
 私は、『ブーメランのように』で彼が演じたジャック・バトキンが、当時のアラン・ドロンの自己矛盾を最も端的に表現した主人公であると同時に、過去に演じたキャラクター、それも「アラン・ドロン」の原型となる人物を演じた作品での主人公の集大成であるとまで考えてしまうのです。

 残念ながら、『ブーメランのように』は、盟友ジョゼ・ジョヴァンニ監督と組んで制作した最後の作品になってしまいましたが、彼が出演してきた映画の沿革の中でも、取り分け重要な位置に存在する作品のひとつであると確信するに至っているのです。

【この映画もまた、他の二作と同様、アランが存在しなければ生まれなかった映画だということを先ず言っておかなければならない。もちろん、このシナリオは私の実体験に基づいて書いたものだが、アランにとっても切り離せないほどその生き方に深く関わっている物語だ。(-中略-)
 アランはまた、この映画には様々なアイデアを持っていて、初めて脚本・脚色という形でも参加した。そのため、私のシナリオはアランによって書き変えられたが、それはむしろ当然なのである。】
【キネマ旬報1976年12月下旬号No.697(「我が友アラン・ドロンと映画「ブーメランのように」を語る」ジョゼ。ジョヴァンニ<訳・構成>細川直子】
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by Tom5k | 2015-03-22 02:23 | ブーメランのように(4) | Trackback | Comments(0)

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